金曜日の夜はTGIFの後になんとなくココボンゴへ行った。たしか前回のTGIFの夜もココボンゴへ行った気がする。習慣になってきている。あやさんの日で、私は最初の客だった。すぐに料理人だという人が来て窓辺に座った。ココボンゴのカウンターの奥には大きな窓がある。高瀬川と木屋町通を見下ろしている。「蛍がいる」というから私も席を立って覗いて見たら、川底の小石が反射して光っていた。ほんとうだ、光っている、きれい。と、知ったかぶりをしていたら、「いや、あれですよ」と指差す方を見ると、桜の枝の伸びた暗闇にライム色をした小さい灯りが浮かんでいた。いくつも浮かんでいた。蛍って実在するんですね。空想上の生き物、もしくは、動物園の昆虫館にしかいないものだと思っていた。ゆっくり点滅するんだね。奇跡的なので沈黙しました。

しばらく眺めていて、席に戻ったら、あやさんが「あ、感動タイム終わりや」と言いました。「これだから都会育ちは」と言いました。この街の夏はいいですね、と私は言った。なにがいいと質問するので、匂いがいい、と答えた。木造家屋の匂いがいいし、湿ったアスファルトの匂いがいいし、どこからか漂うお香の匂いがいい。「あたしは、湿ったアスファルトの匂いは、蛙の死骸の匂い」。雨が降ると、蛙がぴょこぴょこでてきて、黒い舗道でつぶれて死ぬんだってさ。足音がして、母親と中学生の娘の親子が訪れた。あやさんの作ったアクセサリーの箱を受け取りながら、「五条にも蛍がいるらしいですよ」とお母さん。「さっこさんがメールで教えてくれたんです」と言っていたけれど、さっこさんはhakobu kitchenのさっこさんだろうか。どこかのさっこさんが、蛍を見た。

土曜日はホシ・クーペで、フランス人の奏でる篠笛の音を聞きながら髪を切った。もう一本、笛があるから、おまえも演奏しよう、なぜしないんだ、的なセッションの押し売りを軽くかわしました。美容室なのになぜ笛を吹いているんだと言いたい。ホシ・クーベはニューヨーク、パリ、京都、ベルリンにある訳ですが、五月にオーナーのお婆さんに会いました。ファンキーでした。「あなたはかわいい眼鏡をしているわね」とのこと。「ただ眼鏡は似合いすぎたらダメなのよ」とのこと。「ちょっとへんに見えるくらいがいいんですよ」とのこと。メモっとけ。コピっとけ。ホシ・クーペのオーナーさん、今回の滞在でも鈴やへ行ったってさ。ハラミの焼き方が足りないからよく焼けって、門ちゃんにプレッシャーかけたらしいです。お婆さん、アコーディオンが好きで、鴨川のほとりで笛のフランス人とセッションしたらしい。もう、セッションやめてよ。おこ。

髪を切ってからBUG BAGへ行ったよ。MY LOADS ARE LIGHTの新色ソックス、cheichei君が送ってくれたんだけど、門ちゃんへプレゼントしようと思ってさー。アーサもようやく俺が客だってことを理解してきたようだね。ふつうの店っぽいフローで靴下が手に入りました。ゴールドとオリエント・ブルーを一足ずつ見繕って封筒に入れてもらい、鈴やへ。土曜日の鈴や。午後四時、開店したばかりの。そこへMY LOADS ARE LIGHTの新色を手にして訪ねる気分って、だれにもわからない。最高だよ。あたりまえでしょ。「靴下、穴だらけだから、ありがたいですわ」だって。だれかに靴下もらったら、こういう風に答えるんだよ。メモれ。コピれ。まあ、だれかに靴下もらうっていうシチュエーションが余りないかもしれないね。だれかに靴下あげてごらん。

ハナレグミがかかっていた。コスプレしているほうのあやさんがいた。いつもの客が三人いた。病院から抜け出してくる人も。腹に注射差してから飲みはじめる。門ちゃんが下拵えしている。土曜日の開店したばかりの鈴や、眩しくて見ていられない。光っている。川底の小石みたいに。しかめっ面の男だけが、その風景を見ている。ああ、退屈すぎて、ああ、生きているのがつらいってかんじで。その光景を蹂躙するように、THUGっぽい四人組が入店する。台無しにする。仕上がったかんじで、THUGっぽいかんじで。ぐつぐつしている宝石のような煮込みの鍋にちょっかいを出す。悪態をつく。この、圧倒的な台無し感の、スリリングさ。見事さ。まかないカレーのルーだけ注文する野蛮さ。

それがすばらしかった。堀川さんがはしゃいでいた。赤い顔をして「蛍を手にのせると、あちちってなるんやで」と、かれは言った。ぼくは信じかけたけど、嘘だろう。