日常

こんばんはっと。土曜日の昼、神田の藪蕎麦の跡地へいったら駐車場になっていました。きれいさっぱりと。あっけらかんと。番台の女将の通る声が聞こえてくるようだが、なにもない。隣接したビルの背後は、煤で真っ黒だった。あれは善く燃えたでしょうね。切り替えの早さに笑ってしまいました。京都だったら、喪失感で半年は動けずにいそう。もうマネタイズしているのが清々しい。グーグルのアドセンスみたいなもので。駐車場にしてある方が、儲かるのかもしれない。同じ須田町のぜんざい「竹むら」や、すき焼き「ぼたん」の風情は変わらないので、をかしな感じ。あの辺いつもをかしな感じ。迷路みたい。目印の神田藪が消失したから、益々迷路になったみたい。田村君と散歩した。

東京駅から秋葉原の駅で降りて、万世橋の欄干を跨いで、昌平橋まで神田川沿いのコンクリート堤を歩くという、中学生レベルの冒険をしました。もう、もう、ああいうのやめたい。やめるなら今年辺りじゃないかね、田村君。恥ずかしいとは思わんかね。ねぇ、君。川に落ちたら死ねる感じだし。管理人に怒られるのもみっともないし。すたんど・ばい・みいぢゃあるまいし。明治大学の補講を冷やかす。吹奏楽部の練習を覗き込む。女子学生に煙草の火を借りる。燐寸を無料で配つてゐる洋食屋が見つからない。雨が降りだす。そういえば昔、といっても二年かそこら以前、田村と六本木ヒルズのレジデンス棟へ入った事がある。住人の振りをして、住人の後についてセキュリティを通った。いつもそんなことしている。いつも最上階へ上がるんだけれど、いいなと思ったのは、エレベーターの内にモニターがあって、階下のTOHOシネマズの上映スケジュールを流していたこと。いつでも映画いける気持ちでいるって贅沢だな、と思いました。

もう、もう、お金が無い。というのでもないけれど、有るのでも無い。「結婚するには年収が少ないんだよ」と、田村は言った。なにも質問していないのにそう言ったんだから、思い詰めているな、田村の奴。田村のブルースに当てられて、心がざわついてゐる。それでなくても、新幹線のせいで心が揺れてゐる。それでなくても、日曜日はブログを書かなくちゃ、と思って、心が騒いでゐる。一つ、一つ、片付けていくに限る。なにかブログに書こうと思う。構成らしきものを思い描くが、心が常に動いているから、下書きはいつも上書きされる。火曜日、水曜日、木曜日までは、角打ちの松川酒店について書こうと決めてゐた。松川酒店のおばあちゃんに求婚したい、と書こうとしてゐた。今、角打ちの喧噪は遠い過去の様に感じる。神田藪の女将の通る声が、混在してゐる。

日曜日の夕方、時刻が迫って来たら、そのときの感情で書くことにしよう、と東京駅で考えてゐた。そのときに思い浮かぶ文字を埋めていけばいいにゃ、と思ってゐた。なぜか猫になっていた。これは至上であろう。準備の必要がない。そろそろ書かなくてはいけない時が、準備が出来た時であろう。即興で書き始める。音楽家みたいに。旋律のように言葉を連ねる。詩人のように。とかなんとか、調子のいいことを空想しているが、じっさいはそうならない。一行、一行、這いつくばって進むしかないから、ピアニストの戯れには程遠い。じゃ、書かなくていいのに、という話だが、書いたら書いたで愉しいし、読んでくれる人はいる。ぼくが今、やりたいのは、ちょっと長いブログのエントリー。しばらくの間(といっても三分やそこら)ぼくの声が聞こえているような。

だんだん、そんな文章になりつつある。Twitterに負けたくないんだ。

金曜日の昼下がり、はてなブログチームの人たちが、ジョークを言っていた。はてなブログには、有名人が少ない印象だから、有名人を誘致しよう。多くはアメーバに獲られているから、青空文庫から故人を連れて来よう。よーし、紀貫之の「土佐日記」をコピーしよう、題名は「土佐ブログ」にしよう!……こんなことばっかり言ってる。素敵でしょう。

あと五〇〇文字、書こう。あと五〇〇文字書いて眠ろう。眠いから。真夜中に書いて了いがちな日記を切り上げよう。あすは表参道の東京オフィスへ出社して、夜には又、新幹線に乗る。今から心が波立ってゐるし、今からくたびれてゐる。根津美術館の庭を見下ろす湾曲した窓から、陽光が射している。あっけらかんとした陽光が、南青山のアスファルトを熱している。幸いにも私は、あすも退屈しないで生きられる。はてなブックマークについて考えて、はてなブログを書いていればいい。しなもんという犬が亡くなったそうだ。株式会社はてなの創業者夫婦が飼っていた犬。日本のインターネット業界でもっとも知られている犬。近藤さんの自宅で、夕食を御馳走になった時に、幸いにも私は、生前に一度だけ謁見した。すき焼きをつつきながら、ワインを飲んでいた。伊藤直也さんが、近藤さんをなじり続けていた。創業者は苛立ち、腹を立てていた。私には不可解な光景だった。いたたまれなくなって、洗面台へ立ったら、足下に、しなもんがいた。藁の塊みたいに。横たわっていた。すやすや眠っていた。