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準備運動

少し前に、はてなブックマークで見かけた、<世界確認行動>という言葉がおもしろかった。やねうらお氏が書いていた。オンラインゲームのユーザーは、ゲームの世界が自分の期待している姿をしているかどうか確かめる為に、時折、禁止されているすれすれの行動を取るという。自分の棲んでいる世界と、自分の理想としている世界が、重なっているか調べようとして、追放されてもおかしくない行為をする。ぼくはオンラインゲームをしないが、とても良く分かった。自分はずっと<世界確認行動>をしていたのだな、と理解した。冷たいものを飲みすぎたらお腹が痛くなるというのもそうだし、女性を大事にしないと後で痛い目に遭うというのもそうだろう。だいたい痛いのだ。オンラインでもオフラインでも同じであろう。賢い人は世界を確認しなくともルールの内で上手くやるが、ぼくは愚かなので、こうしたらどうなるんだろう?という境界まで行ってしまう。で、叱られるのだ。繰り返し、繰り返し。まあ、でも、名前がついて良かった。世界確認行動。

新小岩の駅は飛び込みが多い。どうかそんな風に世界を確認しないでほしい。駅の職員はカウンセラーと相談して快速のホームの屋根に青いアクリルを張った。青い明かりは心を落着かせるらしい。効果の程は知らないけれど、神秘的な光景である。死を思いとどまらせるというよりも、死が生の世界へ進出しているみたいだ。はっきり申し上げておっかないから、ピンクやオレンジにしてくれないかな。そのうち神父がホームを歩き回るのではないか。おお、神父様、横須賀まで快速で何分かかるのですか。車掌も兼ねてる。こんな冗談ばかり書いているから叱られる。冗談や風刺も、世界を確認するものかもしれないねえ。白線の内側へお下がりくださいってね。うるわしい声のアナウンスに従い、死と生の境界線をきちんと守るのもいいけれど、もっと安全な場所がある。他でもない、快速電車の中である。お尻はふかふか、足下は暖かい、カーテンだってトイレだってついてるし、隣人が気に食わなかったら、車両を替えればいい。ぼくはいつもここで読書する。

二〇一四年は、くだらない世界確認行動なんてやめて、快速電車の中に棲もうと思っている。<つばめ>という古い列車のボックス席を一つ、予約してあるのだ。家には帰らないよ。電車が家だもの。みんながぼくを迎えに来るのだった。ホームで旗を振って待ち受けているのだった。<おーい、降りろ、降りろ、帰ってこい>。でも、降りない。インターネットもつながるもん。六号車は、カツ丼がおいしい、食堂車。十一号車は、ローマ人もびっくりの、蒸し風呂車。なんでも髭も剃れるし散髪もできるとのこと。なんだってあるのだ。ぼくは、そんな風に暮らしたい。いつもガタンゴトン揺れていたい。あの音と振動が好きだし、消毒液と油の匂いが好きなのだ。慣れてしまえば、夜もぐっすり眠れるだろう。<つばめ>と去来する風景のみが、ぼくの世界になる。世界の境界を確認する必要はなく、むしろ正確になぞっている。切符と座席番号を見直す。辞書に書いてある通りに声にだして読む。鉛筆で引いた線を太くする。これらはすべからく準備運動である。