子規ぽよ 6〈饂飩〉

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蕎麥はあれど夜寒の饂飩きこしめせ

そばはあれどよさむのうどんきこしめせ

うどんというのは詩にならないというか、とくに東京では粋じゃないってんで不人気みたいです。俳句でも余り見かけない気がするし、子規が饂飩を詠んだのも此の一句だけみたい。なにかと蕎麦と比べられるのが饂飩の宿命で、たった一つの此の句でも、蕎麦といっしょに登場している。どういう詩だろう。

夜寒というのは秋の季語で、昼は暖かいのに、夜になると寒さが忍び寄る。そういうグラデーションを含んでいる言葉らしくて、味のある季語だと思う。オツだと思う。ちょいと例句を書き出してみましょうか。

犬が来て水のむ音の夜寒かな 正岡子規
下京のともし火並ぶ夜寒かな 高浜虚子
あはれ子の夜寒の床の引けば寄る 中村汀女

二つ目の句は、因幡薬師のおでん屋しか浮かんで来ないんだけど(笑)。下京のともし火というと、あれしかイメージできない。三つ目は中村汀女の偉大な句です。子育ての句。寝ている子がくっついてくるという。夜寒のニュアンスなんだと思う。

蕎麥はあれど夜寒の饂飩きこしめせ。これは、どういう詩だろう。蕎麦はある、と。饂飩がない、と。「聞こし召せ」ってなんだろう。辞書を引いてみると、飲んだり食べたりの尊敬語だって。つまり「召し上がれ」ってことかな。饂飩めしあがれ。

夜寒といったらだいたい蕎麦だけど、今夜はうどんでも食べなよ、という詩かな。どういうシチュエーションだよ、って感じだけど。いつもと違う、少しへんな夜かな。だいたい秋の夜に饂飩ってちょっと落ち着かない。やや早いというか。わかるでしょう。

さて、今回の村田くんのイラストレーション、とても好きだ。子規の句にも、ぴったりだと思う。蕎麦と饂飩のちがいは、なんといっても太さでしょう。それを素朴に見せているのがいい。「太いよ」って。みなさんも召し上がれ。


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illust. Satoshi Murata